ショートショートの玉手箱

ショートショートや短編小説を書きます。ときどきエッセイも。 中の人: 都内在住の会社員。大体三十歳。

2017-09-01から1ヶ月間の記事一覧

掃除人(グリム童話『ヘンゼルとグレーテルより』)

男はその遊園地で掃除人を務めていた。園内に落ちている埃やら紙くずやらポップコーンやらを箒で掃いて回る、あの掃除人だ。 その仕事は一見すると単純で味気のないものに感じられるが、実はとても奥が深い。もちろん、手を抜こうと思えばいくらでも手を抜け…

杜子春(芥川龍之介『杜子春』より)

一 ある春の日暮れです。 花の都・東京のひと気のない公園で、ぼんやり空を仰いでいる、一人の男がおりました。 名は俊春といって、年は三十をようやく数えたところでしたが、見た目は随分老けて見えます。というのも、元は会社の跡取りだったのが、父親の不…

蜘蛛の糸(芥川龍之介『蜘蛛の糸』より)

一 ある日のことでございます。 釈迦崎社長は、牛革の椅子にふんぞり返り、独りで暇を持て余しておりました。 窓の外には、高層ビルがあちこちにょきにょき生えていて、いまにも空を突き破らんばかりです。けれども、どんなビルも釈迦崎社長より上にはありま…

芋粥(芥川龍之介『芋粥』より)

SNSが社会的地位を確立した時代の話だ。SNSは人々の生活に欠かせないものとなり、一国の大統領ですら、自らの思想をSNSで呟く。そんな時代の話だ。 その中に、五味という名の男があった。そして、それ以上特筆すべきことは特にない。学生時代の卒業…